
私たちは医学の発達のおかげで、病気になると医師の診察を受け、処方される薬で病気を治療することができます。
薬はどのようにして生まれてくるのでしょうか。また、新薬と治験にはどのような関係があるのでしょうか。
薬が開発されてから世に出るまでのプロセスをみていきましょう。
新薬を開発する製薬会社の研究所では、日々、薬の材料になりそうな菌類や微生物を探したり、化合物を合成したりしています。また、薬の候補物質の物理的化学的性質を研究したり、試験管内で薬としての薬理作用を研究したりしています。このような研究は基礎研究と呼ばれ、「薬の候補物質」を探すのに2〜3年かかります。
「薬の候補物質」は人間に投与する前に、有効性と安全性を確かめるために動物を使った試験などが行われます。この試験を非臨床試験と言います。
具体的には、薬のはたらきと効き目、安全量の目安、発ガン性の度合い、遺伝子への影響、薬の体内での動き=ADME*試験など、また動物試験以外にも剤形(注射がいいのか、錠剤がいいのか)などが検討されます。
*アドメ(ADME)とは、吸収=Absorption、分布=Distribution、代謝=Metabolizing、排泄=Excretionのアルファベットの頭文字をとった略語
動物試験等で安全性や有効性が確認されると、今度はヒトを対象とした臨床試験が行われます。臨床試験は新薬の開発に協力していただける治験ボランティアさんに同意を得た上で行われます。
少数の健康なヒトを対象として動物実験等により安全性の確認された薬の候補について、安全性を確認するために行われる試験です。
単回投与試験と反復(複数回)投与試験があり、主にアドメについて検討されます。
第T相臨床試験はほとんどの場合入院を伴う試験で、単回投与試験では通常2泊3日〜3泊4日入院期間となります。退院数日後に来院して検査をする場合もあります。反復投与試験では入院期間が単回投与試験に比べて長くなる場合があります。場合によっては20日ほどの入院期間となる場合もあります。
飲み薬だけではなく、注射薬・塗り薬、貼り薬、点眼薬や点鼻薬などすべての医薬品として使用される薬は臨床試験をする必要があります。したがって、貼り薬は背中などを使用して貼って、剥がした後の状態を調査するような試験も行われます。
第T相臨床試験で安全性が確認されると今度は実際の病気をもった患者さんを対象として試験が行われます。
第U相臨床試験は患者さんを対象として、その薬の候補の安全性、病気に対しての有効性、またどの用量で使用したときに一番効力を発揮するのかなどを調べます。
第U相臨床試験は通院の試験や入院の試験など様々です。
既に市販されている同じ効き目を持つ薬(既存薬)と、安全性や有効性(効き目)について比較検討します。
オープン試験といって医師や患者が、使用する薬が新しい薬の候補か既存薬かが解っている場合もありますが、患者を既存薬を使用するグループと新しい薬の候補を使用するグループの二つに分けて医師にも患者さんにもどちらがどうであるかを解らないまま、その効果を先入観なしに評価できるような試験(ダブルブラインド試験)も行います。
対照となる既存薬などがない場合には、プラセボとよばれる偽薬を使用して比較試験が行われます。プラセボは外見や味なども新しい薬の候補と区別がつかないように作られています。
ヒトに対しての臨床試験で、第T相試験から第V相試験まで行うのに3〜7年ほどかかります。製薬会社は、この臨床試験や動物試験などの結果、薬の製造方法の方法などをまとめて厚生労働省に申請します。厚生労働省では、この申請資料を審査するわけですが、その結果、再び申請資料を作り直すことになったり、改めて試験を行うこともあります。
薬が世に出ても使用成績調査・特別調査を行い、データを集めて再び厚生労働省の審査を受けなければなりません。
製薬会社は、臨床試験や動物試験の結果、薬の製造方法などをまとめて、厚生労働省に申請し、承認審査を受け、薬として承認されると、製造販売することができ、保険薬価が決まると処方されます。薬として製品化されても尚、発売されてから4〜10年間の間に少なくとも10,000件のデータを集め、再び厚生労働省の再審査を受けることが必要となります。これが第W相臨床試験です。
こうして薬ができるまでには非常に長い年月(長いもので15年以上)を必要とし、実際に薬の候補となる物質のうち、ほんのわずかのみが新薬として世の中に出てくるのです。どんなに効果が期待できる物質であっても、このプロセスを経なければ決して薬として使用されることはありません。病気で困っている人や将来の世代の人たちのために多くの方々の協力が求められています。
